親指がボロボロ

日常で思ったことを書いていく雑記ブログ

実家に帰ったら不思議な感情を抱いた話

1年ぶりに実家に帰省した。今年は普段より滞在日数を長くしたので、かつて自分が働いていた実家の隣の市まで足を伸ばしたり、家の周りを散策することもできた。

期待と不安、野望を胸に首都圏に引っ越して、気がつけば11年。11年というのは時間の流れがゆっくりな田舎とはいえ、町並みが変化するには十分な期間だ。

もちろん11年ぶりに帰省したわけではない。一時期は全く帰省しないこともあったが、ここ最近は定期的に帰省している。そして戻るたびに地元の風景は少しずつ変化していた。

そのはずなのだが、今回帰省して「俺の知ってる地元ではなくなってしまったな」と改めて思ってしまった。

別に町並みが跡形もなく変化したわけではない。相変わらず瓦屋根の家は大量にあるし、山と畑と道路ばかりで、夜になると街灯がないせいで大通りも真っ暗になってしまうところはまるで変わっていない。

中学生の頃よく行っていた中古ショップとレンタルビデオ屋が一緒になっていた店はなくなってしまい、チェーンドラッグストアになってしまったのも別に最近の話ではない。小学生の頃に行くのが楽しみだった、食品だけでなく、本屋やおもちゃ屋、ゲームセンターも入っていた、ショッピングセンターはなくなって、今はチェーン店のスーパーマーケットになってしまったのも昔の話だ。

それなのにも関わらず、今回帰省して、地元が大きく変わってしまったことに改めて寂しさを抱いてしまったのだ。

もちろん、こうなってしまうことは仕方がないのも分かっている。地元の小さなお店が今の御時世に大資本のチェーン店に勝つなんてことは難しいことだし、地元を去ってしまった人間にどうこう言える権利はない。

 

急にこんなことを思うようになってしまったのはきっと町並みだけの変化ではないのだろう。両親や、兄弟、いとこの変化、そして自分自身の変化が理由にあるのだと思う。

両親も気がつけば頭髪は白髪まみれになり、顔の皺も増えていく一方だ。兄弟は全員社会人になり、いとこの中には結婚して子供がいる者までいる。

実家から関東へ戻る直前、休みが終わりまた働かなければならないという憂鬱さも相まって考えすぎてしまった結果、今見ている光景は夢なんじゃないのか、なにか悪い冗談なんじゃないのか、そんなことを思わずにはいられなかった。

まだ少し前までは両親はまだ若くて、兄弟もいとこも子供で、亡くなったおじいさんもおばあさんも生きていたような気がする。だけどそれはもう結構前の話なのだ。時が流れるということは周りの人間も皆歳を取るというあたり前のことなのに、時の流れに心の変化が追いついていない。そんな状態だ。

気がつけば感極まって涙を流してしまい、自分も兄弟もいとこもみんなまだ子供で、おじいさんもおばあさんもまだ生きてた頃に戻りたいなぁ、とふと思ってしまった。

思春期に差し掛かるころには都会に比べて何もない地元が嫌で、絶対いつか出ていこうと常々思っていたけれど、あの頃はなんだかんだで自分の地元が好きだった。だからそんなことを思ったのかもしれない。

もう1つ涙を流した理由は、両親とこうしていられるのも、もうそんなにないんだなと思ったことだ。おそらく両親と会える日数はもう1年も無いだろう。実家にいる犬に関してはもしかしたら1ヶ月も無いかもしれない。

そう思うと悲しくなってきて、心のなかで「これ以上年を取らないでくれ!」と叫んでいたし、この記事を書いているときも両親がいなくなったときのことを考えてしまって涙が止まらなくなってしまった。自分ってこんなに両親のことが好きなのに全然顔を合わせてなかったのだ。

今まではせいぜいお盆と年末しか帰ることがなかったけど、絶対後悔するからせめて年4回くらいは帰ろう。そう新年早々心に決めた。問題はお金がやたらかかることだけど。

イジョドクの福岡旅行記

せっかく長い休みがあるので、福岡に3泊4日で旅行へ行ってきた。

福岡にした理由はいくつかある。

・季節は冬なので寒い北部には行きたくない

・いわゆる田舎と言われる県は不便だし地元で見飽きている

・ペーパーゴールドなので車を運転したくない

・以前福岡に行ったときに博多駅を歩いている女の子が可愛かったことが強く印象に残っている

以上の理由から福岡旅行に決まった。

 

今回行った場所は以下の通り。門司港は色々あったので一つにまとめている。

博多一双

博多元気一杯!!

小倉城

太宰府天満宮

九州国立博物館

ラーメン海鳴

門司港

東長寺

マリンワールド海の中道

 

この中で一番楽しめたのは、門司港だ。

天気が良かったというのもあるが、とにかく景色がいい。ただ何も考えずにじっと景色を眺めていたくなるような場所がそこら中にあった。

そして、関門海峡ミュージアム。最近リニューアルしたらしく、4Fから渦巻のようにぐるぐると回りながら下に降りていくという作りになっていた。

面白いなと思ったのはチケットに印刷してあるQRコードを使って自分の写真を登録することで、道中にあるゲームで登録した写真が表示されるというギミックがあったことだ。居合わせた修学旅行生は皆楽しんでいたし、自分自身も結構楽しむことができた。ちなみに変な顔で登録していたせいで、それを見た中学生に笑われてしまった。

芸術家によって作られた歴史上の人物の人形も精巧なものばかりで、「はえ~」とついため息が出てしまうものばかりだった。それらを見ていたら自分ですら日本史を勉強し直したいと思ってしまったくらいなので、中高生たちがここに来たら日本史に目覚めてしまうかもしれない。

 

二番目は博多元気一杯!!だろう。ここは高菜食べてしまったんですか?のコピペで有名なラーメン屋で一度行ってみたいと思っていたので、今回宿願を果たすことができた。

昔はスープから飲まないと追い出されたりするようなこともあったらしいが、今は普通のラーメン屋になっていた(隣の客はスープからではなくいきなり麺をすすっていた)。

味はクリーミーなまるでクラムチャウダーのようなとんこつで、スルスルとスープを飲めてしまう危険な味だった。もともと少し面倒くさいラーメン屋でしか味わえないプレッシャーが好きなので、来てよかった!

 

そして三番目は太宰府だ。ここは場所が楽しかったと言うより、三校くらいが修学旅行に来ていてそこら中に女子高生がいたからだろう。人生で一番周りに女子高生がいる状態だったかもしれない。やっぱり女子高生は良い。

 

ちなみに今回福岡旅行を選んだ理由は観光目的もあるが、以前福岡に行ったときに博多駅を歩いている女の子の可愛さに愕然とした(当時はど田舎に住んでいたのでなおさらそう思ったからかもしれないけど)から、また福岡の女の子を拝みたいな~!と思ったからだ。

そんなことを思いつつも4日のほとんどを観光に費やしてしまったが、3日目の夜に博多駅前をウロウロしながらひたすら道を歩く女の子を眺めていた。

やっぱり福岡の女の子は東京に負けず劣らずかわいい!一部では地雷系や量産型と呼ばれるファッションが流行っているが、自分が見た範囲ではそのような格好をしている女の子はわずかしかいなかった。ほとんどの女の子は皆自分の好きな格好をしていて、かつみなオシャレだった(ように見えた)。

そして女子高生のスカートが皆長い!髪型やメイクをガッツリしているような垢抜けてる女子高生も含めてみな膝丈より少し上くらいなのだ。スカートがあまり短いと、どうしても扇情的になってしまう。スカートが短くなると脚の見える範囲が広くなるが、4日福岡にいた結果、膝より少し上もありだな……と思うようになってしまった。やはり膝より少し上のほうが、純粋に「かわいい!」と思える!

 

4日間ほとんど一人で誰とも話すことなく、楽しそうなカップルを尻目に観光していたのだが、それでも何人かの福岡県民と話すことができて思ったのは、皆地元愛があるということだ。マイルドヤンキーのように「地元最高!」というような愛ではなく、福岡に住むということに疑問を持たない……自己肯定感ならぬ、地元肯定感がある、というような状態だろうか。そのような印象を持った。

今回Twitterで相互になって8年の福岡在住の人と初めて会ってお話をしたのだが、彼は東京と福岡、同じ給料でどちらかに住むことを選ぶことができたけど福岡を選んだと言っていた。

福岡のほうが土地代は安いし、東京は通勤ラッシュが地獄だ。それならば福岡を選ぶのは理にかなっている。博多駅前は発展していて、生活にこまることはないだろう。

しかし自分は同じ給料で東京と地元住むならどっちと言われたら絶対に東京を選ぶだろう。自分の地元はドのつく田舎だ。通勤ラッシュなんてものはそもそも存在しないし、土地代も遥かに安いが、代わりに何もない。関東に引っ越してもう10年以上経つが今更地元の生活なんて考えられないし、もし地元で再び生活することになってしまったらすぐに病んでしまう自信がある。

だから、地元に住むという選択を選ぶことができるのは正直うらやましいと思ってしまった。

そんなことを飛行機に乗りながら考えていたせいか、羽田空港に着いても、自分の家に着いても、帰ってきたと言うよりは『どこかよくわからないところ』にやってきたような不思議な感覚を抱いてしまった。

関東の生活は自分には合っていると思っていたけれど、何年首都圏に住もうがやっぱり自分は田舎者のままで、首都圏で生まれ、首都圏で育った人たちと同じになることは絶対にできないのだろう。

だからと言って、少なくとも東京近郊以外で住むことは今更できないし考えられない。だからこそ、福岡の人たちが羨ましいなと思わずにはいられなかった。

11月末の典型的独身男性日記

もうすぐ11月も終わる。12月からは有給消化に入り、来年からは新しい会社で働くことが決まっている。

そんな状態なので仕事にやる気が出るわけもなく、1日で終わる仕事を2日かけてやっている。

もう頭の中は久しぶりにやって来る長い休みのことしかない。そんな状態でもう辞める会社の仕事を頑張れるだろうか。いや、無理だ。

とは言ったものの、これは危機的状況だ。1月から働く会社で今のような働き方をするのは許されない。しかし、普段真面目に働いていない奴が急にまともに働けるわけがない。しかも1ヶ月の長期休暇のあとだ。絶対無理に決まっている。

よってもう辞めるからという理由でダラダラ働いてはならない……ということは分かっているのだが、もうしばらくすればもう自分には関係がなくなることに当事者意識を持てるはずがない。まあ、普段から当事者意識なんてなかったのだが。

1月がやってくるのが不安だ。新しい会社で馴染めるか、仕事について行けるか、そして、すぐに辞めることになったりしないか。それが一番不安だ。

なぜそんなことを思うかと言うと、約4年前のことだが、なんとか入社することができた会社をわずか半年弱で退職してしまった。その時と状況がかなり似ているのだ。

無論考えすぎなことは分かっているし、同じ轍を踏まないよう気をつけてきたつもりだ。それでもやはり同じことを繰り返してしまったらと思うと……その先はもう考えたくない。

加えて、長い休みを前にして脳が誤作動を起こしてしまっている。1ヶ月という休みは社会人にとってはとてつもない長さに感じられるが、そんなことはない。気がつけば終わってしまっているだろう。それでもやはり1ヶ月の休みという未知を目の前にして、自分の頭はもう永久に働かなくてもいいのではないかと思ってしまっているのだ。

そんな脳には指導をする必要がある。12月も早寝早起きを心がけ、毎日外に出て8000歩は歩くようにして遊んでばかりではなく勉強もするようにして、1月にいいスタートダッシュを切れるようにしたい……のだが、自分の意志力の弱さを考えると1ヶ月のうち1週間でもそんな生活ができるか自信がない。

まだまだ自分の社会人生活は続くのは分かっている。世の中がどのように変貌していくのかまるで予想がつかない。だから知識や経験を常に更新し続けなければ貧しい生活を送る羽目になってしまう。

そうだと分かっているものの、以前は夜に技術の勉強をしていたがいつの間にかやらなくなってしまった。代わりに現実逃避、小説を書くことに時間を使っている。やはり『何者』になることを諦められない。

自分はどうなってしまうのだろう。長生きはしたくないが、死ぬのは怖いし、貧しい生活を送る羽目になるのは嫌だ。とりあえず俺を愛してくれる黒髪ロングストレート美少女と出会いたい。

AIのべりすとにキョン!AVを撮るわよ!の続きを書かせてみた

AIのべりすとを使っていてふと思った。『ハルヒキョン!AVを撮るわよ!」』の続きを書かせたらどうなるのだろう?

せっかくAIのべりすとに課金したので、

ハルヒキョン! AVを撮るわよ!」
キョン「お前、突然なにを言い出すんだ」
古泉「

↑の3行まで書いてみて残りは全部AIのべりすとに好きなように書かせてみた。ちなみに設定は以下の通り。

・デフォルト、セリフ、ナラティブの中からデフォルトを使用。

・文章スタイルはゴーストライター

最初はずっと『名前「セリフ」』のSSスタイルを維持しようと頑張っていたのだが、途中から諦めてしまった。

 

涼宮ハルヒの撮影

ハルヒキョン! AVを撮るわよ!」
キョン「お前、突然なにを言い出すんだ」
古泉「さすが涼宮さんです」
朝比奈「うぅ……恥ずかしいけど……がんばりますっ」
長門「…………」
ハルヒ「それじゃあ、まずはインタビューからね。名前と年齢を教えて?」
キョン「おいおい……」
ハルヒ「名前は?」
キョン「…………」
ハルヒ「年齢は?」
キョン「……二十歳だ」
ハルヒ「身長と体重は?……スリーサイズも教えなさい!」
キョン「断る」
ハルヒ「なんで!?」
キョン「なんでって言われてもなぁ……」
ハルヒ「早く言いなさいよ。あんたの体のことなんだから」
キョン「やれやれ……。俺の名前は―――」
ハルヒ「フルネーム」
キョン「えーっと……、……キョン
ハルヒ「あんたの名前なんてどうでもいんだけど、一応覚えておくわ。あたしは涼宮ハルヒ。十八歳の高校三年生よ」
キョン「……」
ハルヒ「ほら、次々行くわよ。趣味は?」
キョン「ない」
ハルヒ「特技は?」
キョン「特にない」
ハルヒ「好きな食べ物は?」
キョン「なんでも食べるが、強いて言えばカレーライスかな」
ハルヒ「嫌いなものは?」
キョン「ピーマンとかナス科全般」
ハルヒ「好きな色は?」
キョン「灰色」
ハルヒ「休日は何して過ごしてる?」
キョン「寝ているか、ゲームをしているか、本を読んでいるか、あとたまに勉強している」
ハルヒ「いつも何時間くらい睡眠をとる方?」
キョン「そうだな……だいたい五時間は眠るようにしてるか」
ハルヒ「一日の平均入浴回数」
キョン「二回かな」
ハルヒ「お風呂ではどこから洗うタイプ?」
キョン「頭からだ」
ハルヒ「週に一回以上のペースで夢精したことはあるかしら?」
キョン「あるわけないだろう」
ハルヒ「オナニーは週どれくらいやるの?」
キョン「しない」
ハルヒ「じゃあ最後に生理がきてから排卵日までの平均日数」
キョン「それも知らん」
ハルヒ「ふむふむ。まあいいわ。ありきたりなプロフィールだけど、それなりに参考になったわ」
キョン「そりゃよかったな。俺はまったくよくないが」
ハルヒ「それじゃあさっそく撮影を始めるわよ! SOS団初の映像作品だからね。気合入れていくわよ!!」
キョン「おい待て。そのビデオカメラはなんだ」
ハルヒ「これはプロ仕様の一眼レフデジタルカメラよ!」
キョン「誰がそんなものを持ってきたのか知らないが、まさかそれで俺のことを撮るつもりじゃないだろうな」
ハルヒ「そうよ? この前買ったばかりなの! すっごく高かったんだから、大事にしなくちゃね!」
キョン「勘弁してくれ」
ハルヒ「文句言わずにそこに立ってなさい。いい? これからインタビューをするわよ。『あなたにとってSOS団とは?』」
キョン「俺は入らないぞ。それにこんなものは許可がいるはずだ。誰の許可をとって撮影したりする」
ハルヒ「団長命令よ!」
キョン「くそぉ」
ハルヒ「それじゃ次の質問。『あなたの彼女はどんな人ですか?』」
キョン「いない」
ハルヒ「あら、そうなの? 意外だわ。誰か思い浮かぶ人はいる?」
キョン「……」
ハルヒ「ん~……、じゃあ次はちょっと攻めた質問するわよ。彼女ができたとしたら、その子と何をしたいと思う?」
キョン「彼女と付き合うというのはどういうことだ? 一緒に買い物に行くということか?」
ハルヒ「そういうんじゃなくて、もっとこう……男と女としての付き合いってやつよ」
キョン「……キスだろ」
ハルヒ「え? それだけ? デートしたり手をつないだりは?」
キョン「……手をつなぐくらいならできるかもしれないな」
ハルヒ「なんで疑問形なのよ」
キョン「……。……で、他には?」
ハルヒ「他にって言われてもねぇ……。うーん、……あっ!! もちろんセックスしたいわよね!?」
キョン「断る」
ハルヒ「次行くわよ。『今までで一番印象に残っているケンカはいつのこと?』」
キョン「俺が一方的に悪いだけの喧嘩だな」
ハルヒ「ふーん。ちなみに原因は?」
キョン「……忘れた」
ハルヒ「覚えてないくらいくだらないことなのかしら」
キョン「俺にとっては重要なことなんだよ」
ハルヒ「はい、もういいわ。次にいくわよ。『最近、一番嬉しかったことは?』」
キョン「……」
ハルヒ「えーっと、……キョン、なんか顔赤くなってるけど大丈夫?」
キョン「いや、別に……」
ハルヒ「ふぅ~ん……。まあいいわ。続けましょう。『最近の悩みは?』」
キョン「特にない」
ハルヒ「ほんとかしらぁ~?」
キョン「ほんとうだって。それよりお前の方こそどうなんだ。何か困っていることはないのか?」
ハルヒ「あたしぃ?」
キョン「ああ」
ハルヒ「うーん、……。……あったような気がするんだけど、思い出せないわね。きっと大したことないんでしょ」キョン「そうか……」
ハルヒが一瞬だけ見せた悲しげな表情)
ハルヒ「うん。……まあいっか。また今度考えることにするわ」
キョン「そうしろ」
ハルヒ「それじゃ最後の質問ね。『SOS団の目標は?』」
キョン「……」
ハルヒ「目標がないの? あんたが言い出したことでしょうに」キョン「そうだっけ?」
ハルヒ「この前言ったばっかりじゃない! SOS団が目指すもの、それは世界平和よ!!」
キョン「……」
ハルヒ「ほら、なんとか言いなさいよ」
キョン「……じゃあSOS団が目指すべきところまで前進するために、俺は何をすればいいんだ?」
ハルヒ「決まってるわ。まず団員を十名増やすのよ!」
キョン「どうやって?」
ハルヒ「勧誘活動ね! それから文芸部も入れてあげないと。古泉くんはともかく、長門さんには入ってほしいわね! あと鶴屋さんのメイド服姿は見たいし! 朝比奈みくるファンクラブの会員を増やすことも重要ね。それと有希にも入ってもらいたいわ。あの子、一人でいることが多いから寂しいだろうと思って!」
キョン「おい待て! SOS団は四人しかいないんだぞ! 九人も入れる余地はない!!」
ハルヒ「ふむ。じゃあ残りの五名は臨時メンバーということにして、とりあえず撮影だけでも済ませちゃいましょ! 次はインタビュー形式にする? 台詞は適当に作ればいいんだから楽勝ね!」
キョン「お前の頭の中には本当に脳味噌が入っているのか?」
ハルヒ「失礼なこと言わないでちょうだい。ちゃんと入っているわよ。ただちょっと他の人より小さいだけで」
キョン「そんなわけあるか。お前の大脳皮質は確実に萎縮しているぞ」
ハルヒ「ふん。だったらあんたはどうかしらね。ここ二週間ほどの記憶、ちゃんとある?」
キョン「……」ハルヒ「さあ、始めるわよ!! ほらそこに立って立って!!」
―――
撮影会が終わった頃には、空はすっかり暗くなっていた。
疲れ切った足を引きずって、俺たちは校門に向かう。
ハルヒはスキップでもしそうな勢いだ。
「これで映画ができあがったら、みんなに見せびゃあきゃあやりましょうね! タイトルは何がいいかしら?
涼宮ハルヒの憂鬱』とかどうかしら? 監督・脚本はもちろんあたしで、主演女優はあなたよ。よかったわね。主役よ。超人気者になれるわよ。ヒロインは当然あたしよ。もちろん、お色気シーンはふんだんに盛り込むわよ。キスシーンくらいならやってもいいかな、って思うわ。もちろん相手役はあなたよ! それでね、タイトルだけど、やっぱりここは『涼宮ハルヒの消失(仮題)』に決まりね! 内容は……うーん、どうしようかしら。SFアクション? 恋愛モノ? ミステリィ? 何でもいいや。とにかくSOS団総出演の映画を作りたいわ! 脚本は……そうねぇ……。……そうだ、いっそのこと全部自分で書いちゃおうかしら? そしたら製作費もほとんどかからないわよね!? そして全世界同時公開よ!! あははははははははっ!!」
俺が一言も発しないうちに、ハルヒは一人で勝手に喋って、一人で勝手に笑った。
「……あのな」
ようやく口を開くことができた。
「なんだ?」
「どうしてこんなことをしたんだ?」
「……はぁ?」
ハルヒは首を傾げた。
「だから、なんで映画の真似事をしてみたりしたんだよ」
「決まってるじゃない。面白いと思ったからよ」
ハルヒは事も無げに言う。
「……」
「面白そうだったから。それだけのこと」
俺は呆れてものが言えない。
「……お前なぁ」
「いいじゃない。楽しかったんだもん。あんただって楽しんでくれたんでしょ?」
「……」
楽しいだと? 冗談じゃない。この上なく最悪だよ。
しかしハルヒは気にする様子もなく、
「じゃあさ、今度はもっと凝ったものを作るわよ! 予算はいくらかかっても構わないから、あたしが納得できるようなヤツを作ってちょうだい! それができたら、また撮影会をしましょう! 今度こそ、本物のSOS団が目指すところまで前進するために!!」
元気よく宣言すると、満面の笑顔を浮かべてみせた。
俺は溜息をついて、星のない夜空を見上げた。
まったく、この女ときたら……、 こいつはどこまで本気なんだか。
本気で世界平和を実現させようとしているのだろうか。
あるいはただ単に、自分の欲求を満たしたいだけなのか。
それとも本当に、SOS団が目指すところまで前進するために映画を作ったというのか。
仮にそうだとしたら、それは途方もないことだ。
ハルヒは宇宙人や未来人や超能力者の実在を信じている。
だが、その連中とコンタクトを取るために映画を撮ろうなどとは考えないだろう。
まして、そのために映画製作をするなどというのは、ハルヒ以外の誰が思いつくだろう。
それに、だ。
もしハルヒの願望通りに事が運べば、全人類がハルヒみたいな人間になってしまう。
ハルヒは俺のことを、頭が空っぽで何も考えてないみたいに言った。
確かに、ハルヒに比べれば俺は考えることが少ない。
なぜならば、ハルヒは頭の中身ごとどこかへ行ってしまったからだ。
俺は考えた。ハルヒの頭の中で、一体何が起こったのか、と。
なぜ、ハルヒはいきなりSOS団なるものを作ろうと思い立ったのか。
「……」
ふと考え込みそうになった時、ハルヒの声が聞こえてきた。
キョン、聞いてるの?」
振り向く。
ハルヒはさっきと同じ位置に立っていた。
「帰るわよ」
「ああ」俺とハルヒは並んで歩き出した。
「今日は楽しかったわ」
ハルヒは満足げに笑っている。
そんなハルヒの横顔を見ながら、俺もまた、
「まあ、悪くはなかったな」
そう言ってやった。
ハルヒは一瞬目を丸くしてから、すぐにいつもの表情に戻った。
「でしょ? あたしの目に狂いはないのよ!」
ふんぞり返るハルヒを見てると、思わず苦笑してしまうね。
5 翌日の放課後である。
俺は部室棟四階にある文芸部の扉の前にいた。
長門有希はいない。用事があるらしく、今日は来ないらしい。
ノックをして、返事を待たずに入る。
古泉一樹は窓際に佇んでいた。
「お待ちしていましたよ」
微笑むイケメン野郎に近づきながら、
「今日は何をするんだ?」
と訊いてみる。
「涼宮さんにはもうお伝えしてあるのですが、今度の日曜日、我々は『神人』と呼ばれる謎の生命体と戦うことになりました。その作戦会議を行う予定です。場所はここです。よろしいですね?」
「……わかったよ。それで、その『神人』ってのはどこから来るんだ? お前らは知ってるようだが、俺はまだ説明を聞いていない」
「えぇ。では簡単にご説明しましょう」
俺がパイプ椅子に座ったところで、古泉は語り始めた。
「まず、『神人』とは何かということですが、これはあなたも知っているはずですよ。あなたのクラスにも一人いるでしょう?」
「……」
「そう、SOS団の団員、佐々木さんです。彼女がいつ頃から存在しているのかはわかりませんが、少なくとも僕が転校してきた頃にはすでにいました。彼女は我々と同じく、この閉鎖空間内に存在し、そして活動している異能者なんです。涼宮さんの言うところの、宇宙人や未来人や超能力者であると言ってもいいかもしれません。もっとも、彼女の場合はまだ能力を完全にコントロールできているわけではありませんが。僕は彼女に何度か会いに行き、話をしたことがありますが、その時の印象は普通の人と変わりませんでした。しかし、ある日のこと、彼女は突然SOS団に加入しました。理由は教えてくれなかったようですが、おそらくSOS団の活動に興味を持ったのではないでしょうか。彼女はSOS団の理念に賛同してくれたのだと思います。
それからしばらくすると、今度は朝比奈さんまでSOS団に加入してきました。彼女も我々の仲間になりたがっていたようで、とても喜んでくれています。朝比奈さんについては皆さんの方が詳しいと思うので省きますが、ともかくこれで三人が揃ったということになります。
さて、次に『神人』についてですが、これもまた詳しくはわかっておりません。先日、SOS団が戦ったあの化物どもがそうなのだろうと推測するしかない状態です。しかし、彼らはなぜかこの学校を襲ってくるのです。それも不定期的に。どういう基準で襲撃してくるのかはよくわからないものの、その周期性だけは確実に存在するようです。今年の五月頃に一度襲来があり、それを退けてから今日までは特に何もありませんでした。それが急に活動を再開したのが七月末あたりだったと記憶しています。涼宮さん曰く、
『神様が何か言いたいことがあるみたいだから、あたしが聞いてくるわ』
とのことでして、その翌日にSOS団が結成されることになったのです。ちなみに、SOS団結成のきっかけとなったのは、涼宮さんが突然口にした、
『そういえば明日は七夕ね。せっかくだし、SOS団で笹でも飾ってみない?』
という一言が始まりとなっています。もちろん、SOS団は即席の部活動なので正式な団体登録などされていませんし、そもそも生徒会に申請すらしていないのですが、それでも涼宮さんはSOS団を正式なものだと思い込んでいるような節があるのです。
『だって、あたしが作ったんだもん! SOS団は正式に設立されているの!』
と仰るんですよ。困ったものです。
さて、以上が僕が調べ上げた情報ですが、何か質問はございますか?」
俺は首を振った。
「いや」
「結構」
古泉はうなずいてから、
「それで、本題に入りましょう」
と言った。
「日曜日の朝、我々は『神人』を迎え撃つために出向きます。そこであなたにも参加していただこうと思いましてね」
「俺が? なんでだ?」
SOS団の戦力がどれだけのものなのかを知っておきたいということもあるのですが……」
古泉は苦笑しつつ、
「本当のことを言うと、僕たちはこれから戦いに向かうわけですが、その際に長門さんがいらっしゃらないと寂しいじゃないですか」
長門がいないと?」
「えぇ。無口な方だとは思いますが、それでも彼女が傍にいると安心できるのです。涼宮さんも同じ気持ちだったのでしょう。彼女はあなたが来ることを待ち望んでいました。僕の時と同じように、勧誘しに行ったのですよ」
「ふむ」
「どうでしょう? よろしければ、お付き合いいただけませんかね?」
「いいぜ」
俺は即座に答えた。
「お前らが行くなら俺も行こう」
ハルヒは俺に命令ばかりする。俺が行かないと言えば、一人でもSOS団を結成しかねない女なのだ。
それに、SOS団の連中がどんな奴らなのかも見てみたくなった。ハルヒが気に入るくらいなんだから、悪い人間ではないのだろう。まあ、もしそうじゃなかったとしても、俺には関係ない話である。
「ありがとうございます」
古泉は頭を下げた。
「では、詳しいことは後ほど。もうすぐ涼宮さんが戻ってきますよ。その時に詳しい指示を出してくれるでしょう」
やがてハルヒは戻ってきた。手ぶらで、どこかしら嬉しげな様子でもあった。
「みんな、ちゃんといい子にしてたかしら!」
それはお前の方だ。
朝比奈さんも一緒になってニコニコしている。今日一日の苦労が報われたような顔をしていた。
キョンはパイプ椅子に座っている。腕組みをして、ハルヒを見上げていた。
「さて、これからのことだけど……。その前にまず、これを見てちょうだい」
ハルヒはポケットの中から折り畳まれた紙を取り出して広げ、俺たち全員に見えるように掲げた。
地図だった。
「ここがどこだかわかる人いるかしら?」
見ろと言われても、ただの学校の敷地内の図にしか見えない。
「これは……この学校の敷地のようですね」
古泉が言った。
「よくわかったわね。大正解。ここはSOS団の本拠地となる予定の場所よ」
朝比奈さんが不思議そうな顔で、
「本拠地って、この部室棟のことを言ってるんですか?」
「違うわ。SOS団の活動場所は、この学校全体になるの」
「えっ!?」
「実は昨日のうちに校長先生に掛け合って、この学校を丸ごと買い取っちゃったのよね。SOS団専用の建物を建てるために。もちろん許可はもらってあるわ」
俺は思わず隣の古泉を見た。
「……知らなかったのか?」
「初耳です」
古泉は目を丸くしてハルヒの顔を見つめているだけだ。
「そ、そんなことしていいのかなぁ……」
朝比奈さんはまだ困惑気味だが、それでも少しは興味が出てきたらしい。
「どういうことか説明してくれないか」
俺の問いに、ハルヒは得意げな笑顔で、
「つまりね、SOS団は今現在、この学校において唯一絶対の存在なの。だから他の部活とか委員会に邪魔されたくないってわけ。あたしたちが本気を出して活動すれば、きっと世間をあっと言わせられると思うの! それこそ、あの時のあたしのように!」
「……」

「もちろん、SOS団は全国制覇を目指してるわ。目指さない理由がないじゃない。そして、そのためにはまず拠点が必要なの。そのためのお金もね。今のSOS団にはそれだけの力がある」
俺は古泉に囁いた。
「おい」
「はい?」
「これ、本当に全部お前がやったんだろうな」
「まさか。涼宮さんの独断専行ですよ。僕は知りませんね」
「……」
「僕が知る限り、涼宮さんがこういうことをするのは初めてのことです。彼女が何を考えていて、何をしようとしているか、僕にも皆目見当がつきません」
古泉は肩をすくめた。
「あなただって同じでしょう? 涼宮さんの考えなんて、あなた以外に理解できる人がいるとも思えませんしね」
それもそうだな。
ハルヒは俺たちの会話など耳に入っていないようで、一人芝居でもするように両手を広げて、
「というわけで、ここに『涼宮ハルヒの団』の本部を作ることにしたの。みんな、協力してくれるわよね? 拒否権はないけど」
俺は思った。こいつは独裁者になれるぜ。
「さて、それで具体的な計画を説明するんだけど」
ハルヒは地図の上に置かれた黒いペンを手に取った。
「見ての通り、学校は広いわ。教室や校舎だけでも相当な数だし、体育館にグラウンド、それに各種運動施設も完備されてる。こんな大きな敷地がまるまるうちの物になったのよ」
ハルヒは黒々とした線で学校の敷地全体を囲ってしまう。その図の中央に、赤い丸がぽつんと描かれた。
「この赤丸は、あたしたちの部室兼事務所を置くことになる場所よ。ここを中心にして、団員たちはそれぞれ割り振られた仕事をすることになるわ。あ、ちなみに全員で仕事する必要はないからね。やりたい人だけ参加してくれればいい。そうすれば効率も上がるってものよ。それと、どうしても手が空かない人は無理に参加しなくていいわ。そういう人には他の仕事を振ってあげる。あとでそのリストを渡すわね」
「ちょっと待てよ」
俺は手を上げた。
「なんだか話がうますぎるぞ。お前一人で決めたわけじゃあるまい。いったいどうやって校長を説き伏せたんだ?」
「あら、あんたが知らないなら誰も知らなくても当然だと思うわ。これは昨日のうちに決まった話だもの」
「俺が聞いてないだけで、水面下ではもっと前から動いてたんだろう?」
「まあいいわ。それは後々わかることだし」
ハルヒは地図の上に何かを書き込んだ。
「まずは、この辺一帯の土地を買い上げたことを伝えるわね」今度は学校の敷地外がぐるりと円で囲まれる。その中心には「森」とある。
「ここが、あたしたちが今日一日かけて撮影する場所よ。学校の裏側にある山だけど、このへんで一番高いところでもあるわ。だから、そこを全部使い切るつもり」
さらに「森」の外側をなぞり、
「この辺りまでが学校の所有地になるわ。つまり、この学校が建ってる土地ね。このあたりは私有地で立ち入り禁止になってるところが多いの。だから、この学校を買い取るついでに、このあたりの山林を丸ごと買い占めちゃったわ。私有地の境界線上にあった木は全部切っちゃったけど、文句のある奴はかかってきなさい」
ハルヒは鉛筆の尻でトンと机を叩いた。
「それで、ここからが問題なんだけど……」
ハルヒは地図の一点を指差して、
「この山の頂上に、お寺があるの。知ってる? 古泉くん」
名指しされた古泉は、
「存じていますよ。名前は確か、鶴屋さんのご実家ですね」
「そーゆーこと」
ハルヒはニヤリと笑い、
「あたしたち、これからここでAVを撮影するの。もちろん、主演女優はあたし。監督はあたし。脚本と演出はあたし。カメラはあたし。編集はあたし。音響はあたし。その他もろもろは、必要に応じてって感じかしら」
俺は頭を抱えたくなった。
「おいおい」
「なによ?」
「そんなもん許可されるのか?」
「さあね。でも、やってるうちになんとかなると思うわ。これも社会勉強の一環よ」
ハルヒは古泉の顔を見て、
「古泉くん、ちゃんと撮れるんでしょうね? この前みたいに失敗したくはないわ」
「大丈夫ですよ。今度はしっかり準備していますから」
「そう? それを聞いて安心したわ」
俺はハルヒの肩に手を置き、
「あのなぁ、いくらなんでも無茶苦茶すぎやしないか? こう言っちゃなんだが、お前が考えているほど簡単じゃないはずだ。その、なんだ……、その手の映像作品はな、素人には扱いにくいんだよ。機材とか、監督とか、いろいろと難しいことがたくさんあってだな……」
「あ、それも心配しなくていいわ」
ハルヒは俺の手を振り払い、
「あたし、昔っからこういうの得意だったのよね。だから、なんの問題もないわ!」
そう言って胸を張るハルヒに、俺はもう何も言う気になれなかった。
「それでね、キョン。あんたに頼みたいことがあるんだけど」
「何だよ」
「撮影の間、暇になった団員たちの相手をしてほしいの」
「は?」
「ほら、さっき言ったでしょ? SOS団専属のカメラマンがいるって。その人が今朝から行方不明らしいのよ。それであたしも困ってるわけ。どこ行ったんだろ……」
「探せばいいじゃないか」
「あたしもそう思って探してるのよ。でもどこにもいないの。校内放送で呼び出しても反応ないし、携帯にも出ないし、メールしても返事がないのよ」
「……」
「まあ、そのうち帰ってくるとは思うんだけどね。とりあえず今日だけはどうにか我慢するしかないわ。あんたたちだって暇を持て余すでしょう?」
「そうだな」
俺は同意してやった。
「みんなもどうせなら誰かと遊びたいわよねぇ?」
ハルヒが問いかけると、団員たちはめいめいにうなずいてみせた。
「よかった! じゃあさ、みんなでどこか行ってきてくれない? 今日中に戻ってくること。もし戻ってきたら、後でお菓子を買ってあげるわ」
その言葉を聞き終わる前に、団員たちが一斉に立ち上がった。
「行こうぜ」
「行くぞ」
「レッツゴー」
「待って、私も一緒に……」
「ああ、朝比奈さん、あなたはここにいてください。僕らだけで十分です」
「えー……」
「僕が必ず連れ戻しますよ」
「ほんとですか?」
「任せておいてください」
「絶対ですよ?」
「はい、約束しましょう」
「わかりました。ちょっとだけ待ってます」
「すみません、すぐに片づけて戻ってきますから」
「はい、行ってらっしゃい」
「では失礼」
長門、急げ」
「……」
「何をぼさっとしている」
「……」
「早くしろ」
「……」
「おい、聞こえないのか」
「……」
「ったく、仕方のない奴だな」
「……」
「お姫様抱っこでもすればいいのか?」
「……」
「それで満足してくれるんなら安いもんだ」
「……」
「ほれ」
「……ありがと」
「おう」
「……」
「どうした?」
「……何でも」
「そうか? 何か言いたそうな顔してる気がするが」
「……」
「俺の勘違いかな」「……」
「じゃあ、行くぞ」
「……うん」
「……と、いうようなことを古泉くんが言ってたわよ」
ハルヒはそう締め括った。
俺たち二人は学校の正門を出て、駅前に向かって歩いていた。
「へぇ」
俺は生返事をした。
「あいつらも大変だな」
古泉は今頃、街中を駆け回っていることだろう。いつ戻るとも知れぬカメラマンを探し求めてな。きっとその最中に、SOS団の団員とすれ違うこともあるに違いない。俺ならそうするからだ。
ハルヒは肩越しに振り向いて、
「あんたが古泉くんの立場だったら、あたしのことを捜してくれた?」
俺はそれに答える義務はない。
「どっちにしても、今日一日くらい我慢してもらうわよ。明日にはちゃんと撮れるようにしておかないと、こっちが困るんだからね」
お前の都合なんか知るか。
「その辺は上手くやるわ。だから心配しないで」
はぁ。
俺は溜息をつくしかなかった。
まあ、これも俺にとって必要な時間なのかもしれん。こんなふうにハルヒと二人で歩くなんてことも、滅多にないことだしな。ハルヒは俺と一緒にいることに何の疑問も感じていないようだし、俺は俺でそれを普通だと思っている。俺は俺なりに、この現実に適応しつつあるのかもしれないぜ。
そんなことを考えているうちに、駅が見えてきた。
ハルヒは立ち止まり、
キョン、悪いけど先に帰っててくれる?」
「何でだよ?」
「あたしさ、ちょっと買い物したいものがあるのよね。だからさ、あんたには付き合えないの」
「別にいいじゃないか、荷物持ちになってやってもいいぜ」
「そういうのいいから。あたしのことは気にせず、自分の用事を済ませなさいよ」
「いいや、お前の用事に付き合うね。ここで別れて一人で帰ったんじゃ意味がない」
「なんでよ? あたしの言うことが聞けないわけ?」
俺はハルヒを見据えた。
「俺はもう二度と、お前のワガママを聞いてやる気はない」
「……」
「さっさとどこへ行くのか教えろ。そして一緒に行けばいい。それが嫌なら、今すぐ帰れ」
ハルヒは無言で歩き出した。
俺はその後を追った。
ハルヒは何も言わずに駅ビルの中に入っていき、エスカレーターに乗って二階に上がった。
そこは女性ものの服屋が並んでいるフロアで、ハルヒが入っていった店の看板に、俺にも見覚えがあった。
「ここは……」
「『ぱふゅ~む』よ」
俺はうなずいた。
ハルヒは扉を押し開け、店内に入った。
「いらっしゃい」
店員の声に迎えられる。
ハルヒは迷わず奥に進み、陳列された商品を眺めて、とある品物を手に取った。
「これください」
それは小さな白い箱だった。
「ありがとうございます」
レジカウンターの向こうにいる中年女性は、愛想よく笑っている。
俺は傍らに立ってそのやり取りを見ていた。
ハルヒはその小箱を片手にぶら下げて、
「じゃあ、帰るわ」
「お買い上げ、どうもありがとうございました」
「……」
「またのお越しをお待ちしております」
「……」
ハルヒは俺を一顧だにしなかった。そのまま店の外へ出る。
自動ドアが開き切る前に、俺は後を追って外に出ていた。
ハルヒはこちらを向いて、
「ついてこなくてよかったのに」
「ああ」
俺は買ったばかりのプレゼント包装に包まれた箱を見た。
「お前のことだ、どうせ中身は何の変哲もないただのクッキーとかだろ」
「そうだけど?」
「それで俺が喜ぶと思うか?」
「思わないわね」
「じゃあ、無駄遣いをするな」
ハルヒは俺に何かを手渡した。
掌サイズの紙切れだった。「これは?」
見ると、電話番号が書いてある。
「あたしのプライベートナンバー」
「なんだって?」
「有事の際に使うための緊急連絡先。あんたにあげるわ」
「……そうかい」
俺はその番号をメモ帳に書き写してからポケットに入れた。
「それじゃ、さよなら」
「気をつけてな」
俺はハルヒの後姿を見送った。
ハルヒは振り返らずに歩いていく。俺のことなどいないもののように、すたすたと早足で去って行く。
「……」
俺も帰ろう。帰って寝よう。そうすりゃ、明日になればハルヒの機嫌もよくなっているはずだ。
俺は来た道を引き返し始めた。
駅の構内を抜け、駅前に出る。
と、そこに。
古泉がいた。
「やあ」
「……」
「奇遇ですね」
「お前こそ」
「僕はあなたを捜していました」
「どうして」
「理由が必要ですか?」
「必要だと思うね」
「では言いましょう。涼宮さんからの依頼です」
俺は舌打ちをした。
「何をしろと?」
「彼女を自宅まで送り届けて欲しいのです。僕には他に用事がありますので」
「断る」
「そう言わずに」
「なぜ俺がそんなことをしなければならない?」
「あなたにとっても悪い話ではないと思いますよ」
「どういう意味だ」
「あなたの気持ち次第ですが、涼宮さんの機嫌がよくなるかもしれません」
「……」
「それとも、今すぐにでも彼女と別れたいのでしょうか? それならばそれでも構いません。彼女がそれを許してくれればの話ですが」
「何が望みなんだ?」
「何も」
「ふざけるなよ」
「大真面目ですよ。さあ、決めてください。このまま別れるか、それとも彼女の願いを聞き入れるか」
「……」
俺は歩き出した。
「どちらへ?」
「お前の家だよ。こんなところで道草を食っている暇はない」「それは結構」
古泉は微笑んだ。
「感謝しますよ」
ハルヒの自宅は、町外れにある一軒家だった。
庭付き一戸建て。ガレージには赤いスポーツカーが停まっている。
俺は玄関でインターホンを押した。
応答なし。もう一度押す。
反応がない。俺はもう一度押そうとしたが、その寸前でドアノブが回り、扉が開いた。
俺は一歩下がった。
「こんばんはー……」
出迎えたのはハルヒの母親らしい人物だった。
母親は俺の顔を見て、
「あらまあ、どうもすみませんねえ」
俺は会釈だけしておいた。
ハルヒの父親は仕事中で留守とのこと。
俺は勧められるがままに居間に通され、そこで茶を出された。
「ごめんなさいね。主人はいないんですけど、あの子なら部屋にいると思うんで」
「いえ」
俺は首を振った。
「お気になさらないでください」
「いつも娘がお世話になってまして」
ハルヒの母は何度も頭を下げながら、台所へと引っ込んでいった。
俺は部屋の中を見回した。
六畳ほどの和室である。中央にコタツがあり、テレビが置いてある。その横に本棚がある。
「……」
ハルヒの部屋とは比べるべくもないほどに狭くて質素な間取りだった。
ただ、床の間に花瓶が飾られていることと、タンスの上に写真立てが乗せられていることが、俺にちょっとした非日常感を与えてくれた。
「……」
しばらくすると母親が盆を持ってやってきた。湯飲み茶碗が二つ載っていた。
「ごめんなさいね、これくらいしか出せなくて」
俺はまた首を振る。
「ありがとうございます」
「お口に合うといいんだけど」
「いただきます」
俺はお茶を一口飲んだ。
ハルヒの母親は、向かい側に座ると、俺をじっと見つめている。
「……何か?」
「あ、いいえ。なんでもないのよ」
「はぁ」
「本当に、申し訳ありませんねぇ」
「……?」
「涼宮のことなんですよ」
俺は目線で続きを促した。
「うちの娘、わがままでしょう?」
俺は黙ってうなずいた。
「困ったものよねぇ」
俺はもういちど、今度は少し強くうなずく。
「昔からそうなのよ。この春、高校に入ったばかりですよね?」
「はい」
「中学までは、もっと大人しかったのに」
「……」
「変わったのはあなたのせいでしょうかね? それとも他のことかしら。ああ、変なこと訊いてごめんなさい。ただ、気になるもので」
俺はもう一口、お茶を飲んでから言った。
「あいつが変わった原因はよくわかりません。俺には関係のないことです」
「そう」
「でも、今はここにいるより、どこか別の場所にいたほうがいいと思います。それがどこなのかはよくわからないですが」
「あなたにはわかるの?」
「なんとなく」
「ふぅん」
母親は小指で眼鏡の位置を直してから、
「じゃあ、お願いしようかな」
「何をですか?」
「涼宮を連れて、遠くに行ってくれないかしら」
「どこに行けばいいのか知りませんが」
「どこでもいいのよ」
「……」
「涼宮とあなたが一緒にいられる場所なら」
「どうしてそんなことを」
「あの子は寂しがり屋だから」
「……」
「いつも一人でいようとするのよ。でも、本当は誰かと一緒にいたいのよね。わかってくれる人は少ないかもしれないけれど」
「そうみたいですね」
「涼宮も、あなたのこと、好きみたいなのよ。迷惑だとは思うけど……」
「……」
「あんな子だけど、よろしく頼むわ」
俺は茶を飲み干して立ち上がった。
「行きましょうか」
俺はハルヒの部屋まで案内された。二階の奥にある部屋だ。
ハルヒはベッドの上で仰向けになっていた。
「……あんた」
ハルヒは俺の顔を見て、
「何やってたの?」
「古泉の家に行っていた」
「へぇ」
ハルヒは起き上がり、ベッドの端に腰掛けた。
「あたしにも教えてくれればいいじゃない」
「お前は留守番していたじゃないか」
「いつ行くかも聞いてなかったもん」
「そうだっけか?」
「そうよ」
ハルヒは俺の目を見ずに、
「それよりさ、どうだった?」
「どうって?」
「楽しかった?」
「別に。普通だよ」
「ふーん」
ハルヒは両手を後ろに突くと、天井を向いたままで、
「あんた、あの子と付き合ってみたら?」
「なんだよ急に」
「どうせ暇でしょ?」
「暇だが、なぜそうなる」
「だって、あんたがあの子のことを好きなのは知ってるもの。隠しても無駄」
「俺は好きだなんて言ってないぞ」
「顔に書いてあるわ。わかりやすいのよ。鏡見たことある?」
俺は無言になった。
ハルヒは俺の顔を見上げてニヤリとし、
「まあいいわ。もしどうしてもって言うのなら、協力してあげないこともなかったんだけどね」
こっちこそ願い下げだ。
「とにかく、今日はこれで解散ね。明日、また来てちょうだい」
俺はうなずき、それからハルヒに訊いた。
「朝比奈さんとは会えたのか?」

「うん。ちゃんと会ったわ」
ハルヒはコタツの上に置いてあった封筒を手に取ると、中から紙を取り出して俺に手渡した。それは二枚のチケットだった。
「これ、あげる」
俺は手渡されたものを見た。
『京都・奈良フリーパス』と書かれている。日付は四月二十日。
「これは?」
SOS団全員分の旅行券。二人分買ったの。あたしと、みくるちゃんと、鶴屋さんの」
「はぁ」
「来週頭に出発する予定なんだけどね。その前に、ちょっと下見に行っておくの。ついでに有希とみくるちゃんを誘っておこうと思ってさ。この前、二人で出かけたときに気付いたのよ。二人は京都に行ったことがないんだなって。せっかくの機会だし、連れていってあげたいなと思ったわけ。それで、古泉くんに相談したら、これをくれたの。今度の連休に、みんなで行こうよって」
俺はもう一度、チケットに目を落とした。
「これがどうかしたのか? それとも、何か別の用事でもあるのか?」
「えっとねぇ……実は、まだ内緒にしておきたいことがあるのよね」
「何だ?」
「そのぉ……。あ、あんたには関係ないことよ!」
「そうか」
「そうよ! いいから黙って受け取りなさいっ」
ハルヒが俺の手に押しつけるようにしてチケットを握らせる。
「あたしたちが帰って来るまでに用意しておいてね」
「ああ」
「それと、来週の日曜日は空けておいてほしいの。いい?」
「わかった」
「ありがと」
ハルヒは照れくさそうに笑い、
「じゃあ、帰るわよ」
俺が玄関まで見送りに出ると、ハルヒは靴を履いて振り返り、
「あ、そうだ。忘れるところだった」
ポケットの中から一枚の写真を取り出した。
「はい」
差し出されたそれを、俺は受け取った。
写真には制服姿の少女がいた。セーラー服を着て、少し困ったような笑顔を浮かべている。
「誰ですか?」
「朝比奈ミクル。三年前のあんた」
「……」
俺は写真を裏返してみた。そこには日付が書かれていた。
五月一日。
俺は写真をコートの胸ポケットに収めた。
「ありがとうございました」
俺は頭を下げた。
「いいわよ、そんなの」
ハルヒは俺の横を通り過ぎながら手を振っている。
俺もドアを閉めて歩き出した。
何のことはない。俺の家は学校の近くにあるのだ。歩いて十分ほどの距離である。だから帰り道は一緒になる。ハルヒは自転車を押して俺と並んで歩く。
「そろそろ春休みが終わったら、一年生が来る時期じゃない?」
ハルヒは楽しげに言った。
「そうなのか」
「あんたってば、去年はずっとサボっていたから知らないでしょうけど」
俺は無言でうなずいた。
「どんな子たちだろうなー。楽しみだなー」
ハルヒは上機嫌で鼻歌なんか歌っている。
「お前はどのクラスになるつもりなんだ?」
「A組かな。楽できそう」
俺はBかCあたりに落ち着くと思う。
「ところで、古泉くんのことは好き?」
いきなり何を訊くんだこいつは。
「どうしたんだよ」
「んー……。あんたがあの子のことを好きなら、あたしは応援しようと思ってね」
「なんでだよ」
「だって、変な噂が流れても嫌だもん」
ハルヒは顎を上げて俺を見下ろし、
「ほら、例えば、付き合ってる二人が、周りに気を使って嘘の噂を流したりとか、そういうのあるでしょ? みくるちゃんや有希と一緒だと、誤解されるかもしれないからさ。それに、もしそうなっても、古泉くんなら上手に対処してくれそうじゃん」
俺は苦笑した。
「俺はあいつのことはよく知らんぞ」
「でも、嫌いではないんでしょう?」
「まあな」
「だったらいいわ。それより、明日から忙しくなるわよ」
ハルヒは目を輝かせて宣言する。
「まずは朝比奈さんを捜す旅に出よう!」
そして翌日。
俺たちはまたしてもSOS団部室に集まった。
昨日と同じメンツが揃っている。
長門有希がいて、鶴屋さんがいる。
ハルヒはテーブルの上にパンフレットを広げ、ホワイトボードにマーカーを走らせていた。
『京都・奈良フリーパス』と書かれたチケットを手に取ると、その下に文字を書き込む。
SOS団京都旅行日程表(仮)』
俺はその横顔を眺めた。
なぜだろう。
今日のハルヒはとても楽しそうだ。
「さて、ここに書いてあるとおり、今度の週末から四泊五日の予定で京都に行きます」
ハルヒは顔を上げ、
「みんな、何か質問はある?」
俺は挙手した。
「はいキョンくん」
「新幹線の席順は?」
「自由です」
「それはつまり、隣同士に座ってもいいということか?」
「当然!」
「朝比奈さんの隣の席は確保してもらえるんだろうな」
「そこは安心していいわよ」
「わかった」
俺はうなずく。
「他に何か言いたいことがある人は?」
誰も何も言わない。
「じゃあ、この辺で解散にします。各自、明日からの支度をしておいてね。集合は朝八時。遅れないようにすること。あ、それと、忘れちゃいけないものがあるんだけど――」
ハルヒはニヤリとして、
「ホテルの部屋割りだけど、これは男女別でよろしくお願いしまーす。もちろん、あたしはみくるちゃんと同室で行くからね! あんたは一人で寝なさい!」
俺の返事を聞くこともなく、ハルヒは立ち上がり、出て行った。
残された面々は黙りこくっている。
やがて、
「……あなた」
長門が口を開いた。
涼宮ハルヒが修学旅行に行く目的は理解している?」
「あ?」
俺は首を傾げた。
「まさか知らなかったの? わたしは知っている。だから問題はない」
「どういうことだ」
「教えてほしいのなら、情報料を要求します」
「いくらだ」
「一万円。現金で」
「高ぇよ。俺が知ってることなんか一つだけだぜ。ハルヒは、自分が楽しいと思ったことをやる。以上」
「それだけ?」
「ああ」
「それでは料金に見合わない。追加の情報を請求する」
「……」
俺は腕組みをして天井を仰いだ。
「仕方ねえな。お前には世話になった借りがあるからな。ただし、もうちょっと具体的な説明を要求する」
「了解」
と、長門は言った。
涼宮ハルヒの目的は二つ」
人差し指を立てる。
「一つは、京都への旅行。もう一つは、『神人の再来』」
俺は眉をひそめた。
「何だそりゃ」
「どちらも、わたしの知らないこと。興味の対象」
「ふうん」
「旅行の理由は、古泉一樹のため」
「古泉?」
古泉一樹は、涼宮ハルヒにとって特別な存在であり、彼のためなら何でもする」
「なんでもって、どんなだ」
「秘密事項なので答えられない」
「……」
「宿泊先は、市内の高級旅館。温泉つき。食事もおいしいらしい」
「ふうん」
古泉一樹はそこに招待されている」
「へえ」
「彼は、涼宮ハルヒに好意を持っている」
「そうなのか」
「あなたは違う。そのことを、彼女はよく思っていない」
「当たり前だろ」
「なぜ? あなたの気持ちはどうなるの?」
「俺はお前らとは違げーんだよ」
「何が違うというの?」
「……」
「説明を求める」
「うるせーな」
俺は舌打ちした。
「そういうことは本人に訊けよ。古泉に」
古泉一樹は、そのことについては何も語らない。ただ、涼宮ハルヒのことを心配していた」
「ふん」
「わたしが知りたいのは、彼女の目的と、彼女が何をしようとしているのか。涼宮ハルヒは何を望んでいる?」
「知るかよそんなもん。あいつのことなんざ、俺にわかるわけねーだろうが。だいたい、お前らがハルヒについてどれだけ知ってるんだ。朝比奈さんを誘拐してSOS団を作ったことくらいしか知らねえんじゃないのか?」
「……」
長門は無言。
俺は溜息をつく。
「まあいいさ。ハルヒが何をしでかすにせよ、俺はいつもどおりに行動するだけだからな」
「それでいいの?」
「他にどうしろって言うんだよ」
「わたしは、自分の行動は自分で決める。あなたが決めないのなら、わたしが勝手に決めることになる」
「好きにしやがれ」
俺は立ち上がった。
「どこへ行くの?」
「帰るんだ。もう用は済んだだろう」
「まだ、話の途中」
「続きはまた今度な」
「待て」
俺はドアノブに手をかけた。
「明日からの修学旅行で、何かが起こるかもしれない」
「起こっても、それはハルヒの責任だ」
俺は長門に背を向けたまま言った。
「お前は余計なことを考える必要はない。ハルヒの行動を見張ってればいいんだ。わかったか?」
返事はなかった。

イジョドクの迷走

10月の終わりから11月。ここ数年はなぜかだか分からないが、女性と新たな出会いのある時期になっていた。そして最後は必ずこちらが必死になりすぎて嫌われるのもセットだ。女の子は難しい。

出会いがあるだけいいじゃないかと思うかも知れないが、んなことはない。逆にその辺りを歩いてるカップルが余計羨ましく感じてしまう。

今年はどうだろうか。緊急事態宣言は解除され、某ウイルスの感染者も激減しているが、今の所まるで気配はない。心をかき乱されるのはつかれるけど、本音を言うとやはり寂しい。

しかし、これで良かったのかもしれない。転職が決まり新しい会社に入るので新しいことを覚えなければならないし、小説の新人賞に応募するための時間も必要だ。女の子のお尻を追っかけている場合ではないのだ。

とは言ったものの何があるかは分からない。髪型、眉毛、スキンケアといったものは日頃から気をつけているし、今年の夏くらいからは服装もずっと抵抗があったビッグシルエットに手を出すようになった。手前味噌だが、三色チーズ牛丼を注文してそうな顔つきだった数年前の自分と比べると見違えるほどに顔つきが良くなっている。いつひょんなことから出会いがあってもバッチリだ。まあ、そんなラブコメみたいなことはそうそう起こらないだろうけど。

見た目の話は置いておいて、去年から新人賞に投稿するようになり先月までで3作小説を書いた。今は4作目のプロットを練っているところだ。

もしかしたら、こいつ充実してるなと思う人もいるかもしれないが、そのとおりだ。小説を書くのは楽しい。いいアイディアが浮かんだり、いいシーンを書けた時の万能感は気持ちいいし、書くこと自体も楽しい。もっと面白い小説を書けるようになりたいという向上心もあるし、小説を書くということで今まで世界の見え方が変わってしまったこともある。もっと早く書き始めればよかったと思っている。最高だ!
しかし、小説の技術書を読んだり、好きな作家の小説を写経したり分析したり色々やってみているが、そうすればするほど、小説というものがよく分からなくなってくる。読んでいて興味を惹きやすくなるストーリー展開や、共感を得やすくなるキャラクター設定、プロットの書き方、そういったものは分かってきたけれど、それはあくまでも知識であって、けっして『正解』ではないのだ。それらを学んでも、『なんだか違う気がするけど、締切に間に合わせるために良しとする』ことを甘んじて受け入れなければならない。完璧主義の自分にはこれがけっこうつらい。

まあ、きっとベテランや過去の文豪たちも同じことで悩んできたのだから、小説を書き始めたばかりのペーペーが簡単に解消できるわけないだろということも分かっているし、そもそも小説に正解なんてものはなくて、誰が読んでも面白くない小説は書けても、誰もが面白いと思えるものなんて絶対に書けないとは分かっている。しかしそれでもこのもどかしさはあまり楽しくない。

結局の所、小説に限った話ではなく、やはり何事にも完全な正解はない。ファッションの話でいうと、本を読んだりネット上の記事を参考に昔の自分なら絶対買わなさそうな服を買うようになったが、オシャレなのか、ダサいのか分からなくなってしまうときが何度もある。少なくとも小汚くはないと思うが、不安になって様々意見に振り回されてしまい、買ったはいいものの何回か着ただけでタンスの肥やしになってしまった服が結構な数あり、おかげで収納スペースが足りなくなってしまっている。

徐々に冬になりつつあるが、今年買った服は今持っているアウターとは合わせにくくて新しく買うしかなさそうだが、今持っているアウターはまだきれいで着られるし、今年は少し服を買いすぎた感があるのでこれ以上の出費に躊躇してしまうが、かと言って合わない今のアウターと新しく買った服たちを合わせることに抵抗がある……という困った状態になってしまっている。

そして生き方についてもそうだ。女の子を求めるのは本能で一生付き合っていかなければならないのだから、小説なんてもう諦めて仕事に集中して収入を上げ、モテ力を上げる。という選択肢もあるが、小説を書き続けることも決して完全な間違いではない。もしデビューできれば人気が出てモテる可能性もゼロではない。今も小説を書いているのも、モテ力のない自分に存在理由を与えるためという面もあるし。結局どちらもモテにたどり着いてしまうが、男なんてそんなもんだ。風野灯織ちゃんと交際したい。

 

異常独身男性は衰退しました

最近気がつけばYoutubeでダラダラと動画を見ている時間が増えてしまった。

見ているのはゲームプレイ動画や、ゆっくり解説がメインだ。これらの動画はそこまで長くなく、かつ頭を全く使わないので気軽に楽しめる。

しかし、その気軽さが問題だ。10分程度見たらやめるつもりが、1時間2時間と見てしまって自己嫌悪に陥ることが何度もあった。時間には限りがあるし、録画したアニメを見たり、買った小説を読んだりと他にやるべきことがあるのに、つい自分を甘やかしてしまう。仮に本当にやることがなくても、有意義な時間の使い方とは言えないだろう。

そしてこういう動画ばかり見ていると頭が悪くなってくるのが分かるし、小説や映画のような長いコンテンツを楽しもうにも集中力が途中で切れてしまう。見るストロングゼロのようなものだ。

しかしこうなってしまうのも仕方ない。動画投稿者達は沢山の人に見てもらうために努力しているし、Youtubeも興味がありそうな動画をリコメンドに表示してくる。Googleという世界でも有数の頭のいい人たちが利用者の時間を無限に吸収するために作ったYoutubeというブラックホールに個人の意志だけで太刀打ちできるものではないのだ。

しかし一切Youtubeを見ないというのも現実的ではない。ただ時間を潰すためではなく、必要な情報にアクセスしたい時にYoutubeを見る必要がある場合もある。

解決方法は1つしか無い。「動画ばっかり見てないで私を見て」と言ってくるような女の子を見つけること。どなたかひとつ、よろしくお願いします。

 

ようこそ孤独死上等の年齢へ

最近仕事が忙しくて精神的余裕がない。ブラウザで開いているBacklogのアイコンに赤いバッジが付くたびに胃痛が起こり、思わず舌打ちをしたくなってしまう。

客は深夜にもバグがないかテストしているようで、朝仕事を始める前に神に祈りながらBacklogを開くのが習慣になってしまった。こんな状態のせいで退勤した後も気が休まらなくて精神的に辛い。朝出勤したらバグが10件報告されていたときは会社支給のPCを叩きつけて破壊したくなった。

さらに在宅勤務で運動量が減り(これは自分が悪いけど)、仕事が忙しくて筋トレする元気も時間もないという状態が続き、体力が明らかに落ちていた。このままではまずい。そのため昨日は少しムリをして以前と同じ量の筋トレを行うことにした。

おかげで全身が筋肉痛になってしまった。しかし、だからといって全く運動をしないのはまずい。録画したはいいものの一話も見ていない『かげきしょうじょ!』を昇降台を踏みながら一気に見ることにした。5話では思わず涙を流してしまい、冷房が効いた部屋でも汗だくになるほどに運動をすることができた。

ヘトヘトで汗だくになるとシャワーで済ませるのではなく、やはり湯船に浸かりたくなるし、いい選択のはずだ。

だが、今回は予想以上に疲れてしまっていたせいか、湯船から立ち上がった瞬間、今までに無いほどのめまいに襲われ、浴室で気を失い、倒れそうになってしまった。

浴室には突起があったりと、気を失ってしまうと大怪我どころか命を失う可能性もある危険な場所だ。20~65歳の家庭内事故のうち4%は浴室で起きている。多くはないが、珍しい場所ということはないだろう。

これで家族と同居しているならば早い段階で発見されるだろうが、残念ながら一人暮らしだ。今回はなんとか助かったものの、そのまま浴室で黒い汁になってしまった未来もあったかもしれない。そう思うと寒気がしてくる。下手なホラーより何倍も怖い。

やはり働きすぎと精神的余裕がないのはダメだ。もう今の仕事やめたい。